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C. trianae‘101202’

バスでの出来事で覚えていることに残酷なものがあります。

もう10年くらい前です。
私はたまプラーザ駅から柿生駅に向かうバスの真ん中右よりの席に座っていました。
乗車口が間近によく見える席です。
乗客は5、6人だったかと思います。

柿生駅に着く3つくらい手前のバス停でした。
物音がした気がして何となく乗車口のほうを見ると、一人の二十歳にいかないくらいの男が乗車階段の途中で外側を向いています。
中肉中背、短髪で斜め後ろから見た顔は一見普通そうに見えました。
そしてその足にしがみつこうとしている太った女がいて、えっと思いました。
女はバスに乗り込んでくるというより這いずり上がってきながら足にしがみつきました。
しかし男は、手で金属の手摺りを握って自分を固定し、女の手を足から振り払い靴の底で寄ってくる女の肩を蹴りました。
ざざという音とともに女は外にずり落ちました。
私は驚いてとっさには何が起こっているのか理解できませんでした。
落とされた女はまた乗り上がってきてすがりつきます。
男もまた靴の底で蹴って落とします。
男は女が自分の足の届くところまで上がってくるのを待っているようにも見えました。
しんとした車内に、女が上がったり落ちたりする音がだんだん大きく響きました。
男も女も一言も言葉を発しませんでした。
運転手は背後の音や気配を感じながらバックミラーで始終を見ていたはずです。
ドアは閉められません。
全員が息をのんでいたと思います。
5回は落ちたでしょう。
最後に男が駄目を押すように激しく女を蹴り落とすと、とうとう女は上がってきませんでした。
男は車内へ体の向きを変えました。
少ししてドアが閉まりバスが静かに走り出しました。

今思えば、あの若い男の顔には暗い影があったかもしれません。
あの女性にも不幸の影があったのでしょうか。
私はきれいごとではすまない世界に触れたのだと思います。
ほんの1、2分の出来事が長い絵巻のようになって、私に残っています。

中島みゆき「ファイト!」から一部抜粋
「私、本当は目撃したんです 昨日電車の駅、階段で
ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
私、驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった
ただ恐くて逃げました 私の敵は 私です」

あのバスの中で自分には何かができたのだろうかとか、いやできないとか、男女の別れに他人が介入するものではないとか、どんなときにも暴力はいけないとか考えていたらこの歌詞の中のほんの一部がどこからか巡ってきました。
そして力をくれる歌詞が続いていることに気づきました。

「ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ」

私のことはここで置いておきましょう。
あの二人はそれぞれ、今はどうしているのでしょうか。
ただ祈るのみです。

(1/22 この文章が小説ではなく私の経験した事実に基づいた随想だという観点から一部表現を修正しました)

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C. trianae‘101202’ 花径13×13cm 2012/1/21撮影

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